盛上げは、森村組の陶磁器がアメリカ進出した初期に大活躍した技術。イッチンという日本画家の開発した道具で、繊細で複雑な加工ができ、外国メーカーの真似のできないデザインと品質を可能にしました。その美しく豪華な陶磁器はアメリカで大きな評判を得、森村組発展の礎となりました。
大成功した〝盛上げ″は、様々なデザインを可能にし、加えて、当時世界的に流行していた「ジャポニズム」の流れの中で、純和風な「梅」をモチーフにした作品もエキゾチックな雰囲気が大好評でした。洋風陶磁器に純和風なデザインが取り入れられた最初の作品と言えます。
盛上げは、豪華さを持ちながら繊細さも持っています。また、小さな点々を無数に打つ点盛りは、作品の豪華さに加えて誠実さえ感じさせ、日本製らしさを思わせてくれます。花瓶の縁や台座のあたりをよく見ていただきたい。
また、右手奥の女郎花柄の花瓶は和風のデザインとなっていて、粘土を盛り上げるという方法でよくぞここまで・・・という繊細さに驚ろかされます。
幻の陶磁器ともいわれるコラリーンは、日本独自の特許による作品です。名古屋の陶磁器メーカーたちが、世界に通じる素晴らしい陶磁器を作ろうと協力して作り上げた“名器”と言えます。陶磁器肌にビーズ(小さなガラス玉)が埋め込まれていて、光の当たり方により美しく輝きだします。ただ、粘土とガラスの相性の問題から“剥がれ”現象も起こり、ほんの数年間しか作られておらず、その数が少ないため、手に入れにくい作品になっています。
盛上げ技術を活用したビーディング(点盛り)という方法は、新たなデザインを生み出しました。陶磁器の肌全面に無数の小さな突起をつけ、金彩した"ゴールドビーディング“と、エナメルで突起をつけた“アクアビーディング”(薄いブルー)があります。どちらも美しく豪華なデザインになっています。
初期のオールドノリタケは、主に花瓶などファンシーウエアと呼ばれる、実用性よりも美しさを重要視する花瓶などの製品を中心に作られていました。
ここではその様々な花瓶を展示しています。
右奥の桃柄は、タペストリーという技法で作られています。肌に布目が付けられていて、普通は滑らかな陶磁器の肌に小さな凹凸があり、あたかもキャンバスに描かれた絵のような不思議な感覚の作品です。
葉巻はアメリカの上流階級の人気の嗜好品であり、様々なデザインのヒュミドール(葉巻入れ)作品が作られました。今回の展示は風景画の作品が主ですが、モールド(型により制作)や盛り上げ、アールデコなど、様々なものがあります。クッキージャーにも見えるものも多いのですが、蓋を開けると湿らせたスポンジを詰め込む穴が空いていることで区別がつきます。
コバルトブルーと言われなじみの深い青ですが、金との相性がよくとても豪華なものになります。
コバルトは日本では採取できない金属で、当時は金よりも高価なものでした。そのため高級品にのみ使用されていたようです。オールドノリタケではそのコバルトに密度高く、ふんだんに金彩を施したものが多く、アメリカでは大きな評価を得ていました。
モカセットは、ほっとココアやホットチョコレートを飲むときに使用される食器です。通常はモカポット、シュガーポット、ミルクポット及びカップ&ソーサー6客セットで構成されているのですが、ここにはモカポットとカップ&ソーサーが5脚になっています。100年の歴史の中で、すべて揃って残るのはとても難しいことなのです。ここまで残っていることに乾杯です。
オールドノリタケの作品は様々なモチーフが描かれていますが、最も多い絵柄は薔薇です。実に多くの作品に薔薇の絵が描かれています。それは最も愛されているのが薔薇ということなのですね。その薔薇と金彩の組み合わせで豪華さが一層増すことになるのですね。
ここに展示されている作品は金彩の赤い薔薇。華やかな豪華さが引き立ちますね。
オールドノリタケの作品はファンシーウエアの中でも花瓶が一番多く作られていました。そのためとてもたくさんの技法やデザイン、モチーフのものがあります。しかし、その多くは金彩が施され、豪華さを演出しています。
左手前の作品は“ターコイズ”(トルコ石の粉末)を使用したとても珍しい花瓶です。花瓶は様々な形状、技法、モチーフ、デザインの宝庫です。
オールドノリタケは、普通のサイズのティーカップはもちろんですが、小さなデミタスカップもたくさん作られていました。
デザインも様々で、見て入るだけでも楽しいですね。
1920年代は、第一次世界大戦が終わり、世界がようやく元気を取り戻し、女性解放の風潮が高まり、狂乱の時代ともいわれていました。そんなとき(1925年)にパリ万博が開催され、アールデコのデザインが一世を風靡しました。
ノリタケは輝きのある釉薬ラスター彩を復活させ、鳥のフィギュア等様々な奇抜なデザインを発表し、女性たちから絶賛されました。
アールデコは女性たちの熱狂的な支持を得て、様々なモチーフのデザインが作られました。特徴は1000年ほど前にアラブ地域で作られ、700年前にすたれてしまったラスター彩を復活させたこと、人や鳥、動物のフィギュアを使ったこと、幾何学文様の繰り返し、ちょっと奇抜なものなどこれまでには無かったデザインが、続々と作り出されました。しかし、このデザインの流れは10年ほどで下火になり、第二次世界大戦へと続く暗い時代なっていくのでした。
初期のオールドノリタケの作品には小物が少なかったのですが、時代が進むにつれて、実用的な機能を持つ様々な小物がたくさん作られていきます。特に、女性たちが使う小物にたくさんのレパートリーが見られます。それは初期の重厚なビクトリア朝風のものから、アールデコの軽妙なデザインのものまで、実にたくさんのものが作られていました。
今回、フルセットのデミタスコーヒーセットを展示することができました。
コーヒーポット、シュガーポット、ミルクポット、カップ6脚。金彩コバルトの上品なデザインのデミタスセットです。十分に現代でも通用する・・・というより現代のコーヒーカップの方が、これらのデザインを参考にして作られているのかもしれませんね。
この作品は大正時代中期ころに作られた「ハンドル付マーブル風景柄ボウル」。なんとも豪華すぎる感じがします。
マーブル(大理石)柄の外側の模様、樹々を描いた内側の模様。美しい曲線を描くハンドルが付き、内側へ絞った形状も大変に凝ったものです。しかも脚付きという凝ったものです。オールドノリタケにはこうした大変に手の込んだ美しいボウルがたくさんあります。
オールドノリタケは日本で最初に“マーケティング”をした会社です。
アメリカへ派遣したデザイナー(日本画家)がアメリカ人の嗜好や習慣、流行などを詳しく調べ、彼らの好みに合う製品のデザインを描き、日本へ送りました。これはその時に描かれたデザインノートです。
日本の森村組(ノリタケの前身)本社では、これを「米状神聖」と呼び、絶対にそれを作ることにしました。それは成功し、常にマーケットの要望に合った製品を作り続けることができたのです。